8月30日、恒大集团有限公司(中国恒大集団)の中間決算が公表されました。
報告書には、資産売却の不確実性への記載が記されるとともに、売上低迷が継続していることが記載されていました。
総資産は、2,377,575百万中国元(2021年6月30日期末)、日本円にすると40兆円にもなる、世界屈指の超巨大企業です。
負債総額も、1,966,534百万中国元(2021年6月30日期末)、約33兆円となります。
最近、恒大社債の保有者が、还钱(金返せ)と、本社ビルを囲う姿が報道され話題を読んでいます。
社債の利払いができず、このような事態に至りました。
私は、現在はベトナムを拠点に会計サービスを提供しておりますが、依然は香港・中国本土で生活し、会計コンサルタントを行っていました。また、現在も中華系のお客様がおり、大変関心がありました。このコラムを通じて、ご紹介いたします。
中国恒大集団とはどのような企業か
恒大は、1996年に設立され、24年の間に急速に発展した企業です。
マンション開発を主力に、文化観光、健康とウェルネス、EV自動車を展開しています(香港上場)。
フォーチュン・グローバル500に選出され、2019年には、2019年中国トップ100民間企業で3位を獲得しました。
2020年にも、同ランキングに選出され、年間売上高800,000百万元(13兆円)、営業利益47,761百万元(約8000億円)を計上しています。連結での従業員数も14万人に及びます。
三条紅線(三道紅線)、中国不動産バブル崩壊のきっかけ
2020年8月に「三条红线(三道红线)」3本の赤線という融資厳格化の方針が決定しました。
2021年1月1日から実施され、2023年6月までに、対象企業の負債を削減することを目標としています。
三条红线(三道红线)
一是剔除预售款后的资产负债率大于70%
二是净负债率大于100%
三是现金短债比小于1
三条紅線(三道紅線)
1つ目は、負債対資産比率が70%を超える(前受金を除く)
2つ目は、純負債比率が100%を超える
3つ目は、現金に対する短期負債の比率が1より小さいこと
現金有利子負債比率 = 現金/有利子負債 <1
簡単な説明ですが、1つ目は自己資本比率が30%は少なくても超えてください、2つ目は資本金は負債よりも大きくしてください、3つ目は有利子負債(利息がかかる借金)を返済できるだけの現金は確保してくださいね、ということになります。
この3つの条件に従って、红、橙、黄、绿、と4つのランクに分類されます。
このあたりは、日本の銀行のドラマ半沢直樹に出てくる、正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先という用語のようです。
銀行の融資方針は、この分類に従い、レッドファイルは、負債規模の上昇が許されず、橙、黄、緑と、負債上昇率は、5,10,15%と許容される仕組みです。
中国恒大集団は、レッドファイルに分類されており、昨年より死刑宣告が言い渡されていた訳です。
この方針が打ち出されてから、台湾、中華系のメディアでは、恒大破産ということで騒がれていました。
恒大からすると、資金調達の3つの方法(株式、銀行融資、社債)の内、銀行融資が利用できなくなり、その他2つの方法に頼る、または早期に資産を売却するしか方法がありませんでした。
※これらの財政関連の法改正に加えて、ここ1-2年の不動産業界の低迷により、販売による資金回収がままならず、早々に資金ショートとなってしまうことは、明白でした。
中国恒大集団の対応(資産売却と理財商品の支払停止)
恒大集团は、これまでに香港湾仔Wan Chaiの自社ビルの売却、香港上場株式の電気自動車、不動産サービス会社の株式売却を進めていますが、売却の確実性がないと言われています。香港でも、湾仔は金融の中心である中環(Central)、金鐘(Admiralty)まで、徒歩圏ということもあり(周庭さんが演説した警察署の隣)、相当な資産価値であることが想像されます。何千億円ものビルを、早期に売却することは、至難の業でしょう。
商討出售本公司位於香港的辦公大樓
商討出售中國恒大新能源汽車集團有限公司及恒大物業集團有限公司部分股份,同時也考慮為本公司及其他附屬公司引入新投資者
中華系の報道では、9月8日には全ての理财产品(金融商品)の利息支払いを停止したと言われています。
》理财产品
商业银行和金融机构自行设计并发行的产品
根据产品合同约定投入相关金融市场及购买相关金融产品
早期に資産売却を進めていくしか方法はなさそうです。
直近の報告書では、財務専門家に参画してもらうなどの記載があるものの、このような巨大企業では、アジアトップの清華大学など有名校で職歴も立派な方が役職についていることはよくあり、出来ることが限られているように見えてしまいました。
鈴木の恒大集団への考え
私は、中国系のお客様がいることから、恒大集团の例は大変関心が沸きました。
北京、上海、深センなど、一級都市では不動産の上昇が止まらず、政府もコントロールすることに躍起だったと容易に想像ができます。メディア、SNSなどでは、バブルが崩壊したという投稿が目立ちますが、正確には、バブルの中にいるが、正しい表現だと思います。もし、恒大集团の財政悪化により不動産業界が低迷となれば、日本のバブル崩壊と同じような構図になってしまいます。なぜ、中国政府が制御できなかったのか、そんな風にはなって欲しくはないと思うばかりです。
※こちらの記事は、2021年9月18日に作成しました。
9月末頃には、中国の中央銀行、中国人民銀行(国務院統治下)は、金融機関に対して、不動産市場の安定化の要請しました。中国人民銀行は、他国同様に、金融政策の策定と実施、財政的な安定を目的にしています。今後、政府側による支援がより明確になっていくと思われます。
進捗を見て、できるだけ情報をアップデートしていければと思います。
最後に、自分で言うのもおこがましいですが、中国恒大集団の構造を、専門家と言われる方々よりも、早くご紹介できたと思います。最近(10月上旬)では、徐々に大手メディアでも、こちらの用語が使われるようになってきたと思います。
こちらは一例ですが、弊社と他社との違いは、中国事情を把握している(または、しっかりと把握できる)ことは、とても異なります。中国からベトナムへの工場移管など、中国語と会計が理解できるスタッフたちで対応させて頂いています(中国現地の資料も翻訳や説明などは必要ありません)。お困りことがありましたら、ぜひご相談ください。
※客観性の担保として、三条紅線(三道紅線)、これらの単語で検索して頂ければ、Googleが本記事を上位に評価していることが分かります(大企業の大手メディアより上位)。実は、You Tubeも考えていましたが、恥じらいで出来ていませんでした。近日に何等かの形で、よりアップデートしていけたらと思います。
宅地建物取引士。香港の日系最大手会計事務所を経て、ベトナムで独立創業。
ホーチミン現地で、仲間のベトナム人会計士たちと共に、日系企業をはじめ外資系企業に、不動産・会計・税務・監査と、ワンストップでサービスを提供。